お茶屋にとって一年で一番忙しい時期が新茶の季節。

狭山茶の産地では4月下旬から5月中旬にかけて新茶づくりの繁忙期となりますが、

その時期を迎えるまでの間、お茶農家は一体どんな茶園管理をし何を思っているのでしょうか。

2022年、まだ寒さの厳しい2月から新芽がきれいに伸び揃う4月に行った、

おいしい新茶をつくるための準備をご紹介します。

雪のあとの肥料撒き

冬の間、お茶の木は休眠状態で寒さに耐えている状態。春の暖かさを感じる頃、お茶の木も活動を始めます。

2月13日、関東地方にも雪が降り都心でも5cmを超える積雪となり当園の茶園も一面雪景色、葉の上にうっすらと雪が積もりました。

お茶の木に積もった雪ですが、どうするかと言いますと放置です。

この積もった雪の中は寒風にも晒されずかえって暖かい。防寒になるんですね。

でもあまりに大量の雪が積もり、雪の重みで枝が曲がったり折れたりする場合は生育や摘採にも影響が出るため除雪します。

状況を見て判断!今回はそのまま融けるのを待ちました。

「ふりっこ」という手動の肥料散布機を使っています。
施肥のあとは耕運。この時期は根っこを切らないように浅めに行います。

2月17日。雪もすっかり融け、天気の良い朝。

春の肥料撒きを行いました。この時期に撒く肥料成分は、これから伸びる新芽の栄養となる大事なもの。

この日は有機質肥料を撒きました。

肥料にはおおまかに有機質肥料と化学肥料があり、有機質肥料は動物の糞や油粕、魚粉などの動物性または植物性の有機物を原料とした肥料。化学肥料は化学的に無機質原料から作られた肥料を言います。

一般的に、化学肥料は植物に吸収されるのが早く即効性が高いので効果を実感しやすいのですが、過剰に使うと土壌の微生物を減らしてしまったり、根が傷んだりします。また、有機質肥料は効果の持続力があり土壌改良効果も期待できますが、即効性がなく臭いやガス障害が起こる可能性があります。

肥料撒きは両者の特性を活かして、上手く使い分けていくのがポイントになります。

春整枝で茶樹をトリミング✂

乗用型摘採機
レール型摘採機

3月中旬から下旬。桜の花も咲き誇る頃、茶畑では新芽の摘採にむけて茶樹面を整える剪定作業を行われます。

この作業を「春整枝」といいます。

ここで刈り落とすのは、赤茶色く変色した大きく古い葉っぱ。

当園では乗用型摘採機とレール型摘採機を場所によって使い分けて春整枝を行います。

古い葉や枝を落とし収穫の際に新芽以外を刈り取らないよう、新茶の品質維持のために必須の作業です。

歩くよりもゆっくり(時速2キロくらい)で丁寧に茶樹を刈り、この春整枝を終えた茶樹の表面にはまだ小さな新芽が顔を覗かせます。

この春整枝を予定より早い時期にしてしまうと、冬の寒さが残っていて新芽が寒さの被害を受けることがあり、また時期が遅いと新芽の生育遅れとなり収穫時期も遅くなってしまいます。

先代から、この春整枝は桜が散る頃に終わらせるように!とよく言われてきました。

茶畑に立ち並ぶ「防霜ファン」

しかし春整枝が終わってからの茶畑管理にはさらに神経を使います。

茶樹表面に露出したやわらかい新芽は寒害を直接受けやすい状態にあり、寒害の中でも特に被害が甚大なのは「霜害」です。

霜害は気温の低下により農作物に被害を与えるもので、これを受けた新芽は茶色く変色して摘採できないことも。。

そこで活躍するのが茶畑にある扇風機、「防霜ファン」。
防霜ファンはこの霜害を防ぐための装置です。
夜になって気温が下がると、日中温められた地面の熱が上空へ放射される「放射冷却」が起こります。
これにより上空に溜まった暖かい空気を、防霜ファンの起こす風によって地表に送り返し、霜害を防ぐという仕組みです。

また霜害だけでなく、寒害の種類は多岐に渡ります。

直接的な寒さにより赤茶色く枯れる被害を「赤枯れ」、冬の乾燥や幹の凍結により水分補給がされず脱水症状によって枯れる被害を「青枯れ」、また急激な寒さによって幹や枝に裂傷が起こる被害を「幹割れ」といい、お茶の産地の中でも比較的寒いところに位置する狭山茶の畑では、これらの被害はよく見られます。

この寒さを乗り切って生長した新芽は、5月には摘み取られ製茶され、おいしい新茶となって皆様のもとに届けられます。

左:春整枝後 右:春整枝前 寒害で赤黄色く変色した葉を刈り落とします。

茶摘み直前のもうひと手間💦

茶木に被せた被覆資材を巻き取る作業
5日から1週間以上被覆します。摘採直前までこのまま。

4月下旬。新芽の葉が開いていくのを待つ中、お茶の木に覆いをかけます。

これはあえて日光を遮断し、茶の生育に変化をつけるため行います。

少ない日の光で光合成を行おうとする茶樹は、葉の中に多くの葉緑素を作り出し、濃い緑色になります。
また、遮光により“旨味成分=テアニン”が“渋味成分=カテキン”に変化するのを防ぐため、
旨味をたっぷり含んだ茶葉となります。

このひと手間により、より品質の良い葉をつくることが出来ます。

被覆した茶葉でつくったお茶は「かぶせ茶」と呼ばれ、野村園では「高級かぶせ茶 翠(すい)」という名称で販売しております。

もうひとつの新茶🍵

また当園では、昨年より「白茶」づくりにも挑戦しています。(2022年、白茶づくりの詳細は別記事にて)

白茶は、主に中国福建省で生産されており、「萎凋と乾燥のみ」というシンプルな製法で造るお茶です。

この白茶を日本茶品種で造りたいという思いから、今年も新茶前に家族の協力のもと造ることが出来ました。

生育途中の極やわらかな新芽をひとつずつ丁寧に手摘みしなければならず、大変な作業ではありますが出来上がった白茶はとても満足のいくものになりました。

手摘みの風景
萎凋工程
新芽の選定
繊細な甘みがあります。

その繊細な甘みを楽しみつつ、2022年の新茶について考える。

4月になり適度な雨と初夏のような気候で新芽は順調に伸びてきました。一時、朝晩の寒さで芽の伸びが止まり、新茶づくり開始時期が遅くなることを心配しましたが、この記事を書いている4月29日現在ではゴールデンウイーク中ごろに摘採が始まるとみています。

毎年何かしらのトラブルは付きもの。昨年は製茶機械が故障しお茶づくりを中断したり、摘採機の刈刃が折れてしまったり色々。。

今年も波乱の新茶づくりを楽しもうと、思いを馳せております。

5月中旬にはおいしい新茶をお届けできるよう、邁進してまいります。

◆新茶のご予約はこちら🍵✨

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